スタート位置:愛媛・内海村
札所:3ヶ所
41番 竜光寺
42番 仏木寺
43番 明石寺
暴走族
朝6時起床。テントから顔を出すと、サトウさんはすでにテントを片付け、ほとんど出発の準備が終わっていた。なんでも、昨夜4時頃、暴走族集団がキャンプ場すぐ近くの駐車場に来たらしい。いわれてみれば少しうるさかったかも。サトウさんはそのものすごい音で起きてしまい、それっきり寝られなかったのだという。ああ、耳栓しててよかったー。
サトウさんはすぐに出発してしまった。毎日ある出会い、そして別れ。今日はどんな出会いがあるのだろう。
凸凹神社
この日は「うわじま」という街を通った。チャリ遍路マップに書いてあったある一文にふと目が止まる。
『ここには子供にはみせられないマル秘展示物が、、、』
凸凹神社という場所らしい。なぜ神社にそんなマル秘なものが、、、!?気になる。しかし入館料800円。アホか、絶対にはいるかと思いながら通り過ぎようとしたが、近くまで来たときになんとなく気になってしまった。外観だけでもみておこうかな、と思い、公園でのんびりしてたおっさんに声をかける。
「この辺に凸凹神社っての、あります?」
「ああ、そこの橋渡ったところにあるよ」
「あ、ありがとうございます」
「しかしあんたみたいに若いもんがあんなとこいくもんじゃないのう、うえっへっへっへっへ」
なんだかとても嬉しそうだ。
しかしこれで決定だ。いくしかない。
内子
夕方は内子という町に滞在することに決定。もう日が暮れてきたし、疲れた体を休めたくて、チャリマップに載っていた「龍王温泉」というところを目指して、走る。
速攻で迷ったので、近くのカーディーラーの店に入り、教えてもらう。場所は思ったより近く、安心。礼をいってでようとすると、
「まあスイカでも食っていきなさいよ。麦茶飲む?」
接待は断ったら失礼だ。快くいただく。今日の夕飯はどこで食べるか決めてなかったので、このおばちゃんにたずねる。やはり地元のことは地元の人に聞くのが一番だ。そしてこんな何気ないやりとりが、今夜のオレの人生を変えていく。
温泉に行き、いつものように湯につかり、水を浴びてマッサージをして疲れを癒す。湯から上がった時はもうすでに暗くなっていた。温泉は丘の上にあり、そこからの夜景がきれいだった。
チャリマップや地元の人の話を参考に、川の横にある公園にたどり着く。水道あり、トイレあり、なかなかいいところだ。みるとちょっと離れたところにテントがあった。木にかかった笠と白衣から、お遍路さんということがわかる。
オレは挨拶をして、「今晩よろしくお願いします」と伝える。
このお遍路さんはサガワさんといい、みるところもうかなりまわっている。結構ちゃんとした人っぽくて安心した。ホームレス遍路がだめ、とかというわけではないが、やはり一緒に寝泊りする時は相手のことをよく見る必要がある。
お遍路をやっている人はほとんどいい人だが、実際に遍路の格好をしている泥棒がいるという話も聞いた。用心するに越したことはない。
オレが町の方にいったん引き返し、飯を食べてくると伝えると、サガワさんは「じゃあ帰ってきたら一緒にビールを飲もう」といって、300円くれた。オレはテントを張った後、軽くなったチャリで町に向かった。
さっきのおばちゃんが教えてくれた店は「シャロン」という洋食屋。店にはいった時、他に客が2人いた。いつもそうだが、なるべく会話が始まりそうな場所を選んで座る。オレは2人の隣のカウンター席に座った。
夜はバーのようにもなる。オレは親子丼を頼み、ぼーっとTVをみていた。そのうち隣のおっさんが話しかけてくる。どうまわっている、だの遍路の話をした。マスターとの会話も弾む中、おっさんが
「おまえ、飲めるか?」
「あ、はい」
「マスター、この人に日本酒あげて」
ラッキー!感謝して、いただく。この後も「玉露フィズ」、そして1880年もののブランデーを飲ませてもらう。ブランデーはまじ美味しかった。
おっさんはだいぶいい感じに酔ってきた頃、突然
「おまえテントはったんか?」
「ええ、、、?」
「今日うちに来い」
、、、まじ!?うれしいが、ちょっと不安だった。酔った頭で感謝の言葉と断る口実を一緒に考える。でもマスターの感じもよさそうだったし、ちょっといってみることにした。
公園のサガワさんとは飲めなくなってしまったので、詫びにビールとつまみ、そして預かった300円を入れた袋を渡す。急いでテントをたたみ、おっさん、そして隣に座っていた彼の「息子」とともに家に向かう。
このおっさん、ヤマウチさんというのだが、結婚はしていないらしい。なのになぜ息子?ということだが、彼は養子なのだそうだ。
遍路で地元の人の家に泊まるのは、初めてだ。ヤマウチさんの家は公園から歩いて5分くらいのところにあった。今はこの養子のコウちゃんと2人で暮らしているらしい。オレは相当酔っていたので、家に入るときも「ま、いっか」という気分だった。
家はいたって普通な感じ。日本の家っぽく、神棚と仏壇があった。昔まわった88ヶ所のものなのか、88枚の札が額に飾られてあった。
居間でTVをみながらビール片手にししゃもをかじる。お遍路らしくない、というか、一人旅らしくない、というか。
チャリ遍路でも、歩き遍路でも、「地元の人の家に泊まる」なんて事はそうそうないのではないか。オレは久しぶりの布団に身をくるんだ。