ルネッサーンス!男を演じることに疲れた人が読むと楽になる男性学の本

2019.01.29

「男性学」と「お笑い」のコラボ

前からゆるーくお付き合いがある社会学者、田中俊之先生が新しい本、『中年男ルネッサンス』を出しました。芸人「髭男爵」の山田ルイ53世さんとの対談本で、二人とも40代男性という立場から、その世代ならではの悩みについて語っています。
僕も現在39歳、アラフォーと呼ばれる年になり、いろいろ共感できるところがありましたし、また一方で「主夫経験者」の視点からはあまり共感できない、というか、「ああ、多くの男性はそう感じるんだなあ」と改めて気付くようなところもありました。
対談形式で非常に読みやすく、話題も多岐に渡っていて充実しています。対談ではお二人ともかなり謙遜しながらしゃべっていますが、ちょっとした話題で出す例えが秀逸だったり、使う言葉がバランス良く丁寧だったりと、知識や経験がないとできない芸当で、さすがと唸らされます。
髭男爵の山田さんがかなりお笑いの話を会話に盛り込んでいて、“お笑い本”っぽい一面もあり、せっかくなので僕も本の内容にいろいろ“ツッコミ”を入れていきたいと思います。

40代は「それなりのものを持っていないとダメ」問題

「田中先生が講演をした時に、ある男性参加者から言われた言葉」という話が印象的でした。
田中先生もG-Shock派で安心しました
これ、はじめ全く意味がわからなかったのですが、要は「40代で地位がある人でも、G-Shockレベルの時計を使っていてもいいんですよね」ということです。普段腕時計をしない僕にとっては全く異文化世界の会話のやり取りです。
でもこれは「男性の社会的な圧」を考える上で、とても象徴的なエピソードだと感じました。
40代男性は、それなりに地位があり、それなりに社会からも認められていて、それなりに金もあり困ることもなく、それなりに人間的に余裕があり、若手から慕われ、女性からの支持も高い…
そんな雰囲気は同じアラフォー男性として日本社会を生きていると感じることはあります。
この「立派であること」を求められる、という期待は男性社会特有のものですよね。20代くらいまでは、結構社会のレールに乗っかってると自動的に成長させてもらえるところがありますが、それ以降になると本人の努力がないと成長できなくなってきます。そこで明確な差が出てくるのが、きっとこの40代という年齢なのでしょう。

男だからこそ言えない、「男の生き辛さ」

誰かが明確に言ってくるわけではないけれど、社会からの見えない「圧」がある。
そしてまた厄介なのは、男性の場合は特に「圧を感じて辛い」と表明すること自体が「男らしくない」という自分への否定に繋がるし、また男らしくない発言は「共感」を重んじない男性から理解されないという背景があり、皆黙って言葉にしないという問題があります。
この本の対談ではほかにも
  • 「後輩から追い抜かれる不安」
  • 「自分の限界・先が見えてしまう恐怖」
  • 「心の通じあう友達を作れない孤独」
  • 「周りから期待される“男らしさ”の辛さ」
  • 「“主人公”にはなれないと気づいたのに、自尊心だけは残る面倒くささ」
など、いろんなことを話していますが、こういう話にアラフォーとして大きく共感できるのも、背景には「そもそも男は男同士で面と向かって共感し合うことが社会的に許されていない」という感覚があるから、こういういわゆる普段言えない「男のホンネ」の部分に触れることへの渇望感があるからだと思います。

男は働かなくて良い

男の辛さというのは、日本で主夫になると必然的に考えさせられるトピックなので、そういう意味ではたくさんの共感がありました。また、僕はあまりにも長く主夫をやっているので、内容によっては「まだそんなことにこだわって、悩んでるの?」なんてところもありました(これはマウンティングなのかな?笑)。
ここではっきり言います。
  • 男は、働かなくて良い
  • 男は、金持ちでなくて良い
  • 男は、立派でなくて良い
  • 男は、カッコつけなくて良い
  • 男は、女性の目を気にしなくて良い
旧来の男らしさの価値観に乗っかっていい思いをしている男男がこうあってもらわないと困る女の人達からすると面白くない意見でしょうし、「落伍者!」「ルーザー!」なんて言われそうですが、僕からの回答は「知らん」です。
僕ら男性は「男らしさ」からもっと自由になるべきなんですよ。「する」「しない」は本人が決め、こういうのは「気が向いたらする」くらいの緩やかさで向き合えば良いのです。
僕はこう思えるようになってからは、もう日々が「無風」です。未だに「男で主夫をやると大変でしょ?」とたまに言われますが、今は「ああ、一般的な感覚ではまだそういう感じなんだ」と思い出すレベルです。多分主婦が普段当たり前のように主婦をやるのと同じように、僕も主夫を当たり前のようになっていて、なんの疑問も持ちません。男だから、女だから、ではなく、それがやるべきことだから、です。

「40男の悩み」がどうでもよくなる、3つのコツ

「そうはいっても、つい男らしさには縛られてしまうよ!ムーチョは特殊で変わり者だからそんなこと言えるんだよ!」なんて言われそうなので、最後に具体的にどうすれば「40男の悩み」から開放されるのか、僕が体験から得たコツを紹介します。

年配者と日常的に会う環境に身を置く

ここで質問。
「家族以外で65歳以上の人と話したことは、直近でいつでしょうか?」
きっと多くの人が、すぐには答えられないのではないでしょうか。「40代だからもうこのくらいはできないと…」という感覚は、無意識のうちに自分の基準を20代、30代に合わせてしまっているからなのです。
僕は地元の町内会の役員をやり、わりと本気で活動していましたが、そこで出会ったのはほとんどが60代、70代の人ばかり。そんな中では、50代の人は「現役の若手」扱いです。僕のようなアラフォーは“子どもみたいな”存在です。
そんな人達と日常的に話していると、感覚が全然変わってきますよ。まだまだやれることたくさんあるし、人生これからだな、と思えるようになります。

会社組織にいる時間を極限まで減らす

会社組織は、男性社会の特徴が特に色濃く出るところです。そもそも会社は年齢、能力、興味の対象が似たような人間が集まる場所なので、自分でも気づかぬうちに他者と自分を比較しあい、マウンティングするようになりがちです。そうなるとどうしても新しい価値観を仕入れるきっかけが減り、結果的に「見えない社会の圧」を感じやすくなってしまいます。
自分と似ている人の中にいるのは居心地が良くもありますが、同時に同調しないとダメ、という意識も強めてしまいます。会社の組織的な人間関係からはできるだけ距離を取るようにしましょう。

利害関係の無い人間関係に交際費を使う

上の話とも繋がる話ですが、逆に利害関係の無い人間関係を積極的に育てるようにしましょう。僕らアラフォー男はとかく「効率的でないものはムダ」と考えがちです。人脈に繋がらない、仕事に繋がらない、出世に繋がらない… そんな人だからこそ、会いましょう。自腹で交際費もじゃんじゃん使いましょう。
そしてできれば、「男の生き辛さ」を本音で語り合えるような友人にまで発展させましょう。男同士の話が男らしさのマウンティングになりがちなのは、共通の話題が大してない、浅い関係だからです。なんでも話せる、それこそ沈黙すらも共有できるような深い人間関係なら、男の辛さを話すこともできます。そういう”気持ち”を共有できるようになると、「背伸びしなくていいんだ」と、男らしさへのこだわりがどうでもよくなってきます。
長くなりましたが、とりあえず
  • こういうジェンダー話に興味がある人
  • 「なんで男ばかり割食わないといけないの?」と密かに思ってる人
  • 30代で成功しきれなかった40代男の話を聞いて共感したい
は、この本はぜひオススメです。