子供をインターに通わせたら区役所から「義務教育違反」と言われた話

ツイッターでかなり反響があったので、ここでまとめます。
発端は、以下のツイート。
そして補足。
まず、なぜ義務違反になるのか?ということですが、これはもう少し詳しく言うと「就学義務違反」の可能性がある、ということです。

「違反」ってなんかすごくヤバイことをしてる…!?

根拠は学校教育法に基づくのですが、要は「親(保護者)は、子供をちゃんと学校に通わせなきゃダメだよ」ということです。
いやいや、インターナショナルスクールだって学校でしょ!ということなのですが、実は法的な視点で見るとそうではない現状があります。
学校に通う、というのはもう少し詳しく言うと「日本政府が『学校』と認めた学校に通う」ということです。これは学校教育法の第一条に書いてあります。
第一条 この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。
これに該当する学校のことを「一条校」と呼び、一条校であれば日本はそれを「学校」として認めている、ということですね。
まあ、そこらの得体の知れない団体がいきなり「学校はじめました!」と勝手に学校もどきなモノを作って、そこに通っている子供の人権を侵害したりしないようにする意味もあるので、制度としてあるのは理解できます。
インターナショナルスクールは、一条校ではないところが多いので、ある意味法的には「そこらの訳の分からない学校もどき」と一緒、という扱いになります。
一条校は国や自治体からの助成金が出ますが、非一条校は法的に”学校ではない”ので、全く助成金が出ません(だからインターの学費は目が飛び出るほど高いのですね…)。
と、まあ長い前置きにはなりましたが、ここで問題なのは
  • 「子供をインターに通わせている親は就学義務違反なのか?」
  • 「インターに通っていた子供は、中学校に入れさせないのは子供の教育機会を奪う人権侵害ではないのか?」
という2点です。

実態がルールとマッチしていない

1点目に関しては現行法上は厳密には違反なのでしょう(そう書いてありますから)。つまり、「文章通りのルール」にしないと違反、ということですね。
そこで今、インターに子供を通わせている親はどうしているかというと、「籍だけ公立小学校に置いて、実態はインターに通わせる」ということをしたりします。
学区内の小学校の名簿に名前だけはあるのに、全く通学しません。でもその学校から卒業証書だけはもらえます。
「なんだそれ!?その学校で全くなにも勉強していないのに、卒業した証明がもらえるっておかしくない!?」
と思うかもしれませんが、これは違法でもなんでもなく、「文章通りのルール」に従った合法的なやり方です。
要は、「文章通りのルール」と「実態」が全然マッチしていないのです。端的に言えば、もうルールが古いんですよね。これだけ国際教育が叫ばれているのに、インターナショナルスクールを未だに一条校と認める、認めないという些細なことで親に「貴方は義務違反だ、日本の学校に通え、通知も送る」という圧力をかけるのは非常にナンセンスと言わざるを得ません。

海外の子はOKで、日本の子はNGっておかしい

また2点目に関しては、文部科学省から、「法の解釈」に関する通知が最近出ました。
これは、要は「小学校課程を終了していない子でも、特別な場合は大目に見て、中学校に入れてあげてね」ということです。
その、「特別な場合」はどういうことかというと…
  1. 親が犯罪を犯す、親から虐待を受けて学校に通えない時期があった場合
  1. 不登校だった場合
  1. 病気だった場合
  1. 海外に住んでいて、日本に帰国した場合
  1. 日本国籍がない人が外国人小学校に通っていた場合
  1. 戦後の混乱や家庭の事情で小学校を卒業できない人が、中学夜間学校に通う場合
と書いてあります。うーん、惜しい!インターナショナルスクールに通学しているケースのことは書いてないですね!
さて、これを読んで「あれ?」と思った方も多いのはないでしょうか。
そうです、4の「海外に住んでいて、日本に帰国した場合」は、小学校を卒業していなくても中学校に入学できるのです。
日本のインターに通っていたらダメで、海外のインターに通っていたらOK、って。もしかしたら「親の仕事の都合でやむを得ず」ということを想定しているのかもしれませんが、今は個人の選択で移住するケースも増えていますし、そもそも会社都合で海外転勤しても、近くに日本人学校があるのに個人の選択でインターを選んでいる家庭もたくさんあります。ただ、そんな場合も、「海外に住んでいただけ」で入学OKになるわけです。
おかしな話ですよね。やはりこれもルールが追いついてないなあ、と感じます。

実は、普通に日本の学校に戻れちゃう

ここまで読むと、
「ルールが変なのはわかったけど、でもルールはルールだから、やはりインターに通わせるのはいろいろリスクが大きいんだな… 怖い… やめとこう…
と思われるかもしれません。
ただここもまた面白いところでして、実態は「自治体に交渉すれば普通に入学許可されるケースが多い」のです。
多い、という表現を使ったのは、あくまでも「可能性はゼロではない」という意味です。僕の周りにはたくさん国際教育をやっているママ友・パパ友がいますが、今まで一度も「中学校から入学拒否された」という話は聞きません。ただ、全くないとは言い切れないので、「多い」としています。 ただ、これで実際に拒否されたら人権問題になるでしょうね(もしもそういう方がいたら連絡ください、僕も問題の拡散に協力します!)。
要は、ここらへんの運用もテキトーなわけです。「自治体が認めたらOK」なので。日本政府としては、1人でも多くの日本人に「日本的教育」をしたいと思っていますし、それを拒否する理由はないわけです(特例の受け入れだって明文化してるくらいだし)。
だから日本的教育から外れようとする人には圧力をかけますが、戻りたいという人はすんなり受け入れます。実際、僕の周りにもインターから日本の学校に移った人、何人も知ってます。

実はインターは不利どころか、有利!?

と、ここまでがいわゆる「義務教育」の話。
義務教育は国や保護者が達成すべき義務なので、本当にそれ実態的に義務違反してる?ということについて書きました。
ただ親としてはもう一つ気になることがありますよね。
「インターは確かに小学校、中学校でそんなに教育の機会にリスクがないことはわかったけど、でもその後日本の大学に入るの大変じゃないの?一度日本の教育のレールから外れたら、”落ちこぼれ”になってどこにも入れないんじゃないの?」
これは、そんなことないよ!とは一概には言えません。結局、子供本人の頑張り次第なので。優秀な子は受かるし、勉強しない子は大変です。インターに行ったからと楽ができるわけではないです。
むしろ「周りと同じようにしときゃなんとかなるだろ」と用意されたレールに乗っかれず、常に自分で考え、自分で判断することが求められるので大変でしょう。
ただ、他の日本の学校の生徒と同じチャンスを得る権利は一昔前より確実に増えている、ということは言えます。

日本は今、大学の国際化に必死

インターというのはまず一括りにするのは難しく、イギリス系の学校はイギリス式の教育をしますし、アメリカ系の学校はアメリカ式の教育をします。教育プログラムが全然ちがうので、一概に比べられないのですね。そして、その内容は多岐に渡り、到底全部を比較することはできません。
なので、あくまでもうちが体験しているものだけについてお話します。うちの子が通っているインターは「バカロレア教育」というプログラムで、これは今文部科学省が推進している教育プログラムの一つでもあります。
この資料に書いてある第一行目の文章が…
「国際バカロレア資格を有する者で18歳に達した者に対しては、我が国の大学への入学資格が認められます 
はい、入学OK!
また、こんなことも言っています。
「大学は、入学者選抜において国際バカロレア資格及びその成績の積極的な活用を図る。国は、そのために必要な支援を行うとともに、各大学の判断による活用を促進する。 」
2017年の時点でバカロレア資格者が大学受験ができる大学のリストはこちら。
長いので、有名どころを例を挙げると…
  • 御茶ノ水大学
  • 東京大学
  • 青山大学
  • 学習院大学
  • 慶應義塾大学
  • 国際基督教大学
  • 法政大学
  • 明治学院大学
  • 立教大学
そもそも国家戦略として
と設定していまして、国としてもバカロレアプログラムの学校をガンガン増やしたいわけですよ。だからそこを卒業した学生が大学に入れない状況を作るわけがないのです。
そしてさらに言うと、大学側としても、国際感覚が強い学生がとても欲しいのです。世界評価の大学ランキングで、多くの日本の大学がポイントを取れないのが「国際性」。国際性の高い教員も、生徒もまだまだ少ないのです。
”日本の大学は「教育」と「研究」のスコアが高い一方、「被引用論文」と「国際性」が低いことがあらためて確認できる”
国際性が低いとどうなるかというと、留学生を受け入れることが難しくなります。今、日本の人口は減っていて、大学側としては学生の確保は死活問題。海外から積極的に学生を受け入れなければ大学が潰れてしまう可能性だってあります。
そんな状況で「先生も英語話せない、学生も英語話せない」じゃ、「行きたい!」と思う人は少ないですよね。だから今、多くの大学は国際性に力を入れざるを得ない時代の流れというのがあるのです。
もちろん、英語だけできて、他の教科ができない、ではダメですよ!英語はただの基本ツールです。このツールを使って、何を表現するかが一番重要です。ただ、このツールすらないとそもそも話にならない、という時代なっていますので、そういう意味でそれが普通に備わっているインター生のアドバンテージはあるでしょう。
とても長くなりましたが、日本のインターナショナルスクールの現状のまとめでした!読んでいただき、ありがとうございました!